研究室の光景・探求の現場

担当:崔・吉田・村上(司会)

概要

 大学の研究室といえばどのような空間を想像するでしょうか。そこにあるのは、うず高く積まれた書籍の山でしょうか。それとも大きな実験器具でしょうか。整然と置かれた試験管の列でしょうか。

 昨年度前期は「フィールドの風景・探求の現場」と題して、フィールドで活躍する二人の院生(海洋生物自然史学・文化人類学)からお話をうかがいました。今回のディスカッションでは、主に大学の研究室を探求の場とする二人の院生(有機化学・社会学)からお話をうかがいます。実験による化学の研究と、文献による社会学の研究とでは、学問の手続きが大きく異なるように思われます。それぞれは相手の学問をどのように捉えているのでしょうか。

 今回のディスカッションでは、研究室での写真をまじえて日々の研究内容も紹介します。みなさまのご参加をお待ちしております。

ディスカッションを終えて

 今回のディスカッションでは、有機化学、及び社会学における研究方法、あるいは研究の性質が大きなテーマになったかと思います。文系出身で、現在、社会学関連の文献を扱った理論研究を主に行っている私にとって、理系出身で、有機化学をご専門とされている吉田さんの研究方法や研究の性質は、非常に新鮮なものとして感じました。また、ディスカッションを行うにあたっての、有機化学と社会学との「接点」はどこにあるのかという点に関して、私自身少し不安ではありましたが、村上さんのご尽力により、ディスカッションも円滑に進行したかと思います。

 また、議論やコメントを含め、ディスカッション自体が非常に「学際的」なものであったと個人的には感じました。もちろん、有機化学と社会学を扱う以上、「学際的」であるのは当然かもしれませんが、こうした面も含めて、総人・人環らしさが前面に押し出されていて、そうした側面を少しでも垣間見ることができて、私自身としましても、非常に楽しくディスカッションを行うことができました。

崔昌幸(社会学)

 今回のディスカッションでは社会学と有機化学の研究手法の違いが主題となりました。文系・文献からの理論研究を行っている崔さんと理系・実験を研究手段とする私とで果たして議論が成立するのか不安もありましたが、司会の村上さんが丁寧に舵を取ってくれたおかげで、お互いの研究の進め方を具体的に見せることができてよかったと思います。私が担当した二回の講義でも(教科書的な知識よりも)研究の現場をイメージしてもらおうという狙いがあったので、今回の議論を通して自分の講義内容を補強でき、また今まで想像もしたことがなかった社会学の研究室の様子を見られたのは非常にありがたいことでした。

 ディスカッションの後半では無機化学・触媒を研究している浪花さんが登壇しました。浪花さんとは研究分野が近く普段から交流がありましたが、研究室内(の写真)を見たのは初めてでした。お互いの実験設備でよく似たところ、異なっていたところが見てとれて興味深かったのですが、参加者にはうまく伝えきれなかったかもしれません。

 フロアからの質問では研究現場での感覚をすでに持っているかのような具体的な質問が多くて驚きました。研究室配属後をしっかりイメージできている人が多いようで頼もしいと感じました。

 

吉田(有機化学)

 昨年度前期は野外のフィールドで活躍する院生が登壇したのに対し、今回は研究室で活躍する有機化学と社会学の院生が登壇しました。前回までの講義内容も丁寧に補足され、また研究風景についても充実したスライドで紹介することができ、学部生に「研究の現場」を伝える目的は十分に果たされたと思います。京都大学では日夜様々な領域の研究者が活躍していますが、表からは見えないところで研究者は地味な努力を続けているはずです。

 ところが研究領域が異なると、互いにどのような現場で日々格闘しているかなど知る機会もありません。工学部出身者と文学部系出身者が議論した今回のディスカッションは、その意味でも非常に稀有なことだったと思います。当日の直前までスライドの訂正に手間を惜しまれなかった登壇者の二人には研究者としての誠実さを感じました。両人に感謝します。

 

村上絢一(日本中世史)