視覚的記憶と視覚的注意

担当:藤道(視覚科学)

概要

 

前回の講義では「見る」ことに焦点を当ててヒトの知覚メカニズムについて学びました。

今回の講義ではより高次の視覚情報処理に着目してみましょう。今回は視覚科学の中でも研究の盛んな「視覚的記憶(ワーキングメモリ)」と「視覚的注意」を取り上げます。

 

これらの認知機能は、流動的に変化する私たちの日常生活において非常に重要な役割を果たします。

具体的にはどんな場面で重要な役割を果たすのでしょうか?

パッとは思いつかなくても、意識してみれば実に多くの場面でこれらの機能に頼っていることがわかると思います。

あるいはどんな実験がこれまで行われ、どんなことがわかっているのでしょうか?

 

今回はこの2つの機能を掘り下げることで、ヒトについて深く理解していきましょう。

 

講義を終えて

 今回の講義ではテーマとして視覚的記憶と視覚的注意を取り上げました。講義の進めるにあたっては前回の「どのように世界を見ているか」という話をベースにして展開することで、スムーズに理解できるようにしたつもりです。いかがでしたでしょうか。

 

 講義の前半では私たちがどれだけ正確に視覚情報を記憶できるのかについて、視覚的注意も取り上げつつお話をしました。その過程で「目の前の人が違う人になっても気づかない」という衝撃的で驚きの映像(変化の見落とし)をお見せしたのですが、実験室実験だけではなく、現実の世界でも変化の見落としが生じることを体感していただけたように思いました。講義の前半では視覚的注意との関わりの中で、私たちはかなり詳細まで視覚情報を記憶できているという結論でまとめました。

 

 講義の後半では先ほどの結論が正しいのかと発問することからスタートしました。すると、親近性があればその情報は詳細に記憶できるのはないか、と質問をいただきました。そこで実際にアップルのロゴや一万円札の裏の模様を描いていただき、この考え方がどこまで前半部の内容を説明できるか検討していきました。特に後半は作業の時間も多かったのですが、受講者の皆様の積極的な参加により順調に講義を進められたと思います。ありがとうございました。

 

 この2回の講義によって視覚科学あるいはヒトのおもしろさ・不思議さを感じていただけたのではないでしょうか。ただ、僕自身がこのおもしろさに浸かりすぎていたために、質疑応答では十分に回答ができていなかったように思います。具体的には他の分野に比べたときの視覚科学の考え方の特徴は何か、あるいは他の分野にどのようなインパクトを与えられるのかといった、他の分野との関係についても考える必要があると痛感しました。

 

アシスタントコメント

 前回同様、非常にまとまった授業でした。話慣れしている印象で言葉が聞き取りやすいので、授業内容に集中することができます。

 今回は前回の反省を踏まえて情報量を制限されたためか、トピックが少々狭く感じられました。しかし初学者向けとしては、狭いトピックをじっくり紹介するのも一つの方法かと思います。その場合は、当該研究の分野内での位置づけや、実験の背景を余談として盛り込むと良いと考えます。

 参加型の授業ができることは、分野の強みだと思います。思わず関心を引かれ、楽しめる授業でした。実験の一部を自分で体験することで知的好奇心が刺激され、この道に進みたいと思う受講生もいたのではないでしょうか。全体を通して、成功している授業だったと思います。 

 

 院生質問につきましては、質問者の分野での事情をもう少しお話しした上で質問すべきだったと反省しております。専門分野が異なりますので、質問の意図をしっかりお伝えし、適宜、語彙の定義を説明する必要を感じました。

 今回の質問では、文学者には「言語」によって認知した世界を「現実」と捉える考え方がある一方で、視覚科学者は「視覚」で認知した世界を「現実」とは異なるものだと捉えている、その差異が面白いと思いました。「現実」とは何なのか、それを考える上で、視覚科学の研究が人文分野にも今後、影響を与えてくれる可能性を感じました。

 

山根(日本文学)